「発明塾®」へようこそ!: 「戦える頭脳集団へ/IBMの知財戦略」~塾長の部屋(51)

2013年9月25日水曜日

「戦える頭脳集団へ/IBMの知財戦略」~塾長の部屋(51)

昨日、定例の社内の勉強会を行いました(注1)。弊社では、外部の識者を招くことも含め、よく勉強会やブレストを行います。

昨日も、AM2時間半と昼食を合わせて、計4時間の討議を行いました。



今回の勉強会のテーマは、僕個人的には「IBMの知財戦略の尻尾をつかむ」ことでした。活発な議論を通じて、所期の目的は、ほぼ達成されたと思います。


IBMは、メインフレーム⇒PC⇒クラウド/サービス、と「時代の変遷」に耐えながら、その知財戦略/知財マネジメントの手法を進化させてきました。おそらく、米国のIT系企業や、一部の欧州/日系企業も、IBMとの交渉(注2)/IBM人材の受け入れ(注3)を通じて、その手法を吸収し、実践していると思われます。


紙幅の関連で詳細は割愛しますが、IBMの知財マネジメントの特徴は、その独自のライセンス手法にあると言えます(注4)。



ある関係者曰く「IBMの知財マネジメントは刀狩り」とのことで、強者が確実にさらに強くなるために、考えぬかれた手法だと、感じます。IBMは、かつて独禁法関連で苦しめられたこともあり、巧妙に「独禁法違反」を回避した戦略にも、なっています(注5)。



そのIBMから多くを学んだ2社

IBMの知財戦略と、「国際標準化と事業戦略」で有名な 小川 先生(注6)の、「知財マネジメントの公理」(注7)を組み合わせると、中国/韓国を始めとしたキャッチアップの戦略が、いずれ「強者がますます強者になる」IBM式戦略に移り変わってくることが、透けて見えます。



さらに「深読み」して、フェルプスがIBM/マイクロソフトで実践したような、「強者が強者になるための知財マネジメント」のために、中国/韓国が「国家知財ファンド」を創設し、権利活用を行ってくるとするならば・・・。


日本の「国家知財ファンド」(注8)の知財マネジメントも、根本的に変わってくるのではないでしょうか?


例えば、ライセンス先は「国内ベンチャー」「国内中小企業」ではなく、「新興国企業(大手含む)」になるでしょう。契約も、ライセンス収入「だけ」を目当てにするのではなく、かなり巧妙にする必要があります。ポートフォリオの組み方も、非常に重要です。


企業から「買い取った」知財を、国がどこまで「国策として」「交渉力として」積極活用できるか、非常に興味深いケースです。


「勝つための打ち手」は、国内外の識者(注9)の活動により、ほぼ明らかにされています。「アジアの成功を取り込む」(注10)ためにも、「戦える頭脳集団」(IBM式)への変化が、求められていると思います。



「発明塾」もTechnoProducer株式会社も、「頭脳で戦える」人材の育成を目指し、設立した組織です。今後も我々は、様々な機会を通じて「勝てる戦略」「戦える組織」の科学を追求し、その実施/実現を推進します。




※ 注1) 弊社では、定期的に「知財」「発明」「教育」等、弊社の事業分野に関して、社内のみの勉強会とブレストを行っています。月1程度でしょうか。それ以外にも、クライアントや外部の識者を交えた勉強会も、各方面で開催しています。例えば、以下参照。


・「塾長の部屋(14)~社内の勉強会から」

http://edison-univ.blogspot.jp/2012/09/blog-post_25.html

・「塾長の部屋(42)~「ものづくり」を学びたい人に」

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/05/blog-post_26.html

・「月例ブレスト~「国際標準化と事業戦略」を発明に応用する」

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html


※ 注2) 例えば以下参照。


・「雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟」伊集院 丈 著

・「雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉」伊集院 丈 著


※ 注3) 例えば、「マイクロソフトを変革した知財戦略」の著者 Marshall Phelps は、元IBMの特許部門責任者である。その経緯は、例えば以下に詳しい。


・「マイクロソフトの知財戦略」

http://commutative.world.coocan.jp/blog2/2010/09/post-800.html

彼が「どう」マイクロソフトを改革したのか、関連範囲を引用しておく。


「マーシャル・フェルプスの託された主要なミッションは、独占の権化のようなマイクロソフトを、オープン・イノベーションのトラックに乗せることである。そのためには、逆説のようであるが、保有特許件数を増やさなくてはならない。」

「フェルプスがIBMで手がけたライセンス収入を作り出すスキームは、利潤の枯渇に苦しむIBMにとって死活問題」
「増大してきた特許ポートフォリオを背景に、マーシャル・フェルプスが進めたことは、クロスライセンスであった。知的財産を使ってコラボレーションを生み出すということの典型的な施策」
「特許訴訟という意味では、マイクロソフトは、いわゆるディープ・ポケットであって、攻められっぱなしであった。反訴しようにも、使える特許をあまり保有していなかった。そこで、特許ポートフォリオを充実させて、その抑止力で訴訟を減らし、クロスライセンスを増やしていくというのが明確な方針」

そしてこのライセンス戦略の成功により、ますます「先鋭的な発明」を権利化し活用するという、好循環を生み出し、「交渉力」を確実なものにしている。


他、彼自身の講演も参照。
http://opencanada.org/features/keynote-speech-by-marshall-phelps/ 


※ 注4) 詳細は、2013年6月27日(木)開催の、以下講演内容を参照。

 「進化する米国知財ビジネスの実態 ~パテント・アグリゲータ - その実態と日本の対応~」
 講 師 : ヘンリー 幸田(Henry Kouda)氏 米国弁護士 
 主催者 : 知的財産研究所

※ 注5) クアルコムも同様である。


※ 注6) 「国際標準化と事業戦略」小川 著



※ 注7) 以下講演の配布資料参照。


・「イノベーションと標準・知財戦略 ~2020年への再生シナリオ、製造業復活のために~」

http://enterprisezine.jp/article/detail/4352

以下に、関連部分を抜粋転記します。


★「知財マネジメントの公理」

1)フロントランナー型
・公理1:その知財に価値があり、これを回避・迂回する知財が存在しない時その企業は競争優位を獲得できる。
・公理2:市場と企業の境界を事業領域として定め、その製品のコア領域でクロスライセンスを排除できて、コア以外の領域で他者の知財を回避、迂回できるなら、その企業は競争優位を獲得できる。
・公理3:その知財が自社のコア領域と市場の境界を介して市場に影響力を持たせることが出来れば、その企業はさらに強力な競争優位を築くことができる。

2)キャッチアップ型

・公理1:その製品が国際標準化されていて、知財ライセンスを受けられそしてその企業のトータルビジネスコストが先行する競合企業よりもはるかに低いのならその企業はグローバル市場で競争優位を獲得することができる。
・公理2:例え最先端技術を持たなくても、先行する企業にとって必須となる知財を、トータルなビジネス構造の中でわずか一つでも持ち、そしてその企業のトータルビジネスコストが先行する競合企業よりはるかに低いのなら、その企業は競争優位を獲得することができる。
・公理3:トータルビジネスコストがもたらす利益によって、その商品を進化させる技術開発に成功し、これをフロントランナー型の公理で守れば、キャッチアップ型だった企業がグルーバル市場のリーダーとなる。


※ 注8) 例えば「産業革新機構」や関連ファンド


※ 注9) 小川 先生、丸島 先生、ヘンリー幸田 先生、等


※ 注10) 以下、小川 先生の講演資料を参照

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kyousouryoku/dai3/siryou3.pdf