「発明塾®」へようこそ!: 発明塾京都第143回開催報告~「偶然に必然を見出す」J.モノーに学ぶ

2013年8月24日土曜日

発明塾京都第143回開催報告~「偶然に必然を見出す」J.モノーに学ぶ

前回はお盆ということでお休みでしたので、2週間ぶりの発明塾となりました。前回の「合宿」で創出したアイデアを、討議しました。

また(結果的に)、合宿も含めたこれまでの討議内容を一部振り返り、「どういう領域で発明を生み出すべきか」と「その際の発明法はどのようにあるべきか」も議論しました。

実は、僕自身は7月の議論を踏まえて、この状況を予測しており、先回りして、弊社発行のメルマガで「偶然と必然」(J.モノー)を、「今週の一冊」に取り上げています。

・TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.130

以下抜粋関連部分
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●今週の一冊
「偶然と必然―現代生物学の思想的な問いかけ」J.モノー

ラクトース オペロンの発見者として、ノーベル医学・生理学賞を受賞した、
J.モノーの著作。もはや、現代生物学の「古典」である。

知れば知るほど「精緻な機械」である生物。
「合目的性」と、「偶然」が果たす役割。

「生物とは何か」

今回は、この問いから、始めてみて下さい。

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以前より度々、発明プロセスにおける「ブレイン・ストーミング」(注1)の役割について、塾で討議/検証し、説明してきました。

合理/非合理、論理/非論理、どちらの表現でも構いませんが、発明において重要なのは「合理的に非合理プロセスを追求する」ことであり「非論理的プロセスを、論理的に使いこなすこと」です。

このプロセスは、生命の進化のプロセスそのものです。我々は生命体として、「局所的に非常に非合理的なプロセス」を内包した「合理的存在」なのです。

また、論理的プロセスの繰り返しが、時として非常に鋭敏で複雑な発散/散逸(注2)構造を現出させることは、「非線形現象」「複雑系」として広く知られています。

「論理的に考えること=安定的かつ効率的な解法である」というのは、幻想でしかありません。いわゆる「左脳崇拝」です。論理性は、効率性も安定性も、一切保証していません。

非線形現象/複雑系の典型が、いわゆる「カオス現象」です。

僕がこれを知ったのは丁度大学の頃で、当時毎晩、友人とBasicで「カオス」「フラクタル」に関するプログラムを書き、「マンデルブロー集合」や「ジュリア集合」、ローレンツ方程式の解(ローレンツ・アトラクタ)等、を描画させて遊んでいました。

・「カオス―新しい科学をつくる」J.グリック

その後、遺伝的アルゴリズム(GA)などの発展により、局所最適に陥りがちな論理的解法に確率的手法を組み合わせて、効率よく全体最適を見出す方法が探求されたことは、皆さん(注3)も御存知のとおりです。

これまでに得られている、発明の「公理」をいくつかまとめておくと、

・「論理的プロセスだけでは、良い発明は得られない」
・「非論理的なプロセスを、論理的に導入することが重要である」
・「非論理的なプロセスを論理的に使うと、解の探索プロセスが著しく省略される」
・「非論理的なプロセスで得られたアイデアに、論理性を見出すことが重要である」

というところでしょうか。僕自身は、発明(創造的思考)プロセスと、生命の歴史やカオス/フラクタルとの、強い相関を見出しているところですが、この辺りは、今後も塾で継続的に議論していきたいと思います。

では、次週までに、先行技術調査も含め、各自の発明をしっかり進めて来て下さい。

もう一冊。


※ 注1) 発明=アイデア出し=ブレイン・ストーミング、と考えている塾生がいるかもしれませんが、ブレイン・ストーミングが全発明プロセスに占める割合は、ごく僅かです。しかしながら、非常に重要な意味を持っています。

※ 注2) 「散逸構造」の方は、I.プリゴジンの各著作を、是非参照してください。その後僕は、ナノテク研究の中で「自己組織化」に再び出会い、プリゴジンと再会することになります。例えば、シュレディンガーが、現代物理を追求した挙句に「生命とは何か」(シュレディンガーの著作)に行き着いたように、物理を追求すると、決まって生命科学に突き抜けるのには、なにか理由があるのでしょう。

※ 注3) 塾生であれば、カオス/フラクタルに関するマンデルブローやローレンツの業績や、GAぐらいは、知っておいて欲しいところです。

※ 注4) 結局、P/NP問題論と同じことを言っているだけ、のような気がします。また、関連する過去の記載を以下に示しておきます。工学(と工学「教育」)の本質であり、工学部の学生は、このセンスは身につけておくべきでしょう。

・「なぜ調べるのか
http://edison-univ.blogspot.jp/2011/10/blog-post.html