「発明塾®」へようこそ!: 12月 2013

2013年12月29日日曜日

発明塾京都第161回開催報告~2013年を振り返って

第161回も、無事終了しました。今回も各自のアイデアを広く討議し、また、一部の時間を「発明法」のレビューに割きました。

個人的には、あまり進んでいなかった塾生のアイデアに進展が有ったことが、収穫だったと思っています。やはり、時間を掛けることが重要です。

現在のテーマでの討議は、SR(Solution Report:発明提案書)完成まで含め、1月末で終了としますので、年末年始も含め、発明にしっかりと時間を割いて下さい。大学生にかぎらず、多くの大人にとっても、年末年始は「まとまった時間が取れる、唯一の時間」です。


ここでどれだけ集中出来るかが、大きな成果を出せるかどうかを決めます。


自主合宿が予定されているようですので、大いに期待しています。



年末ということで、軽くこれまでと2013年を振り返っておきましょう。発明塾京都は、2013年で四年目を迎えました。東京と合わせると、開催回数は累計で250回を越えており、その議論の積み重ねが「発明塾式発明法」を確実に進化させてきました。


提出した(発明提案書として完成した)発明の数は、累計で百を軽く越えており、過去の発明を振り返ることで見えてくるものがあることも、今年度々実感したことでした。



さて、皆気づいていると思いますが、僕が意図的に2013年に時間を割いたことが、二つあります。


①知財戦略の各種パターンを、ケーススタディーとして解きまくる中で、理解してもらう

②企業に着目した特許分析を、テーマを変えて行う

いずれも、企業ではごく普通に行われる(注1)ことですが、大学の教育はまだ追いついていませんので(注2)、皆さんがこれらの手法に習熟しておくことは、今後社会人として活躍する上で、大きなアドバンテージになるでしょう。



ということで、2013年は、これまでの発明塾が「どちらかと言うと技術オタク寄り」の内容から攻めていたのに比べると、


「知財寄り」かつ「実務寄り」


の内容を重視してきた、と言えるでしょう。僕が目指すものがあくまでも「総合工学的アプローチ」であることは、変わっていませんし、むしろそれに近づいているといえるでしょう。



発明塾が定義する「発明」が、


「ビジネスモデル付きのアイデア」


であることもまた、変わりはありません。「資本主義/市場主義経済」の仕組みに載って広く普及し、世の中の問題を解決できるアイデアを生み出すためには、どのように考えればよいか、という「方法論」を、今後も追求していきます。



エジソンの発明史を紐解くと
事業への執念を感じます

最後になりますが、今年で卒業する「卒業生(卒塾生?)」は、今後、研究/経営/知財などの仕事に就くことになると思いますが、「さすが発明塾」と言われるように、最後まで自分の力を高めてください。


もちろん、大活躍を期待しています(約束されていると思っています)。



では!




※ 注1) 弊社内でも、教育を兼ねて勉強会を行い、各種業界の主要/注目企業の特許分析とそれを踏まえた知財戦略の立案、発明創出を常に行っています。


※ 注2) 「知財教育の必修化」は既に指導要領には入っていますので、あとは実践の時間を待つだけ、です。3月に文科省主催のシンポジウムでこのあたりの現状を取り上げて講演をしますので、お楽しみに。



2013年12月21日土曜日

発明塾京都第160回開催報告~「ものづくり」を学ぶこと、「深い理解」に至ること

第160回も、無事終了しました。

今回もまた、「発明塾」式の「発明方程式」の解き方について、素晴らしい進歩が得られました。もちろんその結果として、素晴らしい発明も得られたわけですが、方法論の進歩は、結果以上に重要です。

参加した塾生さんは、お疲れ様でした。


僕が、発明塾の討議で常に心がけていることの一つに、「どのような議論にも、必要最低限の時間を掛けること」が、あります。

実際には、塾生が多数参加して、色々なアイデアを討議したいと思えば思うほど、このルールを守ることは難しい(注1)のですが、このルールが重要であることは、僕だけではなく、塾生も「身を持って」理解しています。

今回も、「一見、筋が悪そうな発明の方向性」について、「何で筋が悪そうに見えるのか」という僕の疑問を解消するために、一定の討議の時間を取りました。その結果が、上記「発明方程式」の解き方の進歩に、つながりました。


今回の議論を踏まえて、塾生の一人から、

「楠浦さんが、ものづくり(ものの作り方、という意味です)について勉強する際の、おすすめの参考書は何ですか」

という質問がありました。良い質問です。既に挙げた本(注2)以外にありますか、と。


結論から言うと、既に挙げた

「ものづくり解体新書」「実際の設計」「クルマはかくして作られる」

以上のことは、各論で勉強するほうがいいのではないか、と思います(注3)。



「クルマはかくして作られる3」です!
ものづくりに関する、これ以上無い素晴らしい
「教科書」の一つ

以前も、「クルマと携帯電話の作リ方を、部品レベルまで押さえれば、ほとんどすべてのものづくりが理解できる」という話をしました(注4)。

意欲のある塾生さんは、「クルマはかくして作られる」を紐解きながら、さらに一つ一つの内容について、学問的(専門の教科書的)に理解を深め、また、ネットで関連情報を調べ、まとめるとよいでしょう。調べて、

「ふーん」

と「何となくわかったつもり」で終わらせず、自分でまとめる事が重要です。さらに実際に、発明でそれらの知識を使うと、理解は完全になります。

例えば、最も身近な機械部品として「ボルト(ネジ)」があります。上記、「クルマはかくして作られる3」で、最初に取り上げられています。福野氏(著者)が最初に取り上げている理由は、「シンプルで、最も重要で、奥が深い(注5)」からです。本書によれば、トヨタの新人技術者は、専門の指導員から「10時間」ボルトについて講義を受けるそうです。当然でしょう。ボルトを知り尽くさずに、機械設計は出来ません。


今回の発明討議で取り上げた「CFRP」については、「主応力」という概念を駆使しないと、製造法が理解できません。塾生のメモによれば、

「応力とは、力/面積(この面は選び方がいろいろできる)です。この面の選び方によって応力はその面に垂直な垂直応力と、並行なせん断応力に分けられます。せん断応力が0となるような角度の面において垂直応力は極値となり、その垂直応力のことを主応力と呼ぶ」

だそうです。ちゃんと、理解できているようですね。しかし彼は、

「原理の理解が甘くても単位は取れるけど、発明には圧倒的な力の差を生むなと感じ」

ているようです。いいことです。講義の単位がどうとか言うような、低い次元の話をしていてはいけません。


「知財」と「ものづくり」を学ばないと、発明は出来ません。大学の授業で「クルマはかくして作られる」をテキストにして工学の知識を縦横無尽に教えれば、もっと学生が「原理原則の深い理解」ができるのでは?と思います。
式や名前を教えたり、憶えさせたり、簡単な問題を解かせたりしていても、社会で求められる能力とのギャップは、開くばかりです。

ファインマンの子供の頃の体験が、非常に興味深い(注6)。

「ねえパパ、ぼく発見したんだ。荷車を引っ張ると荷台のボールはうしろに転がる。引っ張っていて急に止めるとボールは前に転がる。どうして?」
ファインマンの父は「それは慣性というものだよ」とか「ニュートンの運動の第一法則だよ」といってすませることもできた。しかし、父親は息子の疑問に真剣に答えた。
「なぜかはわかっていないけれど、動いているものはずっと動きつづけようとし、止まっているものは力を入れて押さなければ動かないものなんだ」
ファインマンは「これが深い理解というものだ」と述べている。「父は名称を教えたりはしない。何かの名前を知っていることと何かを知っていることの違いを父はわかっていた。私は幼いうちにそれを教えられたのだ」


そういう「深い理解」にたどり着けるような場として、「発明塾」を今後も継続していきたいと思います。



※ 注1) 発明塾のメンバーが、常に一定の数に保たれる理由が、ここにありそうです。

※ 注2) 「技術・設計・問題解決」に関する参考書のページを参照。発明塾で「蔵書」として所有しているものも有ります。今後も逐次充実させ、塾生が自由に勉強できる環境を整えたいと思っています。

※ 注3) これは、僕自身がそのようにして身につけたから、ということになります。エンジン設計者は普通、ボルトや歯車のような「機械要素」の製造法、金属の熱処理、金型の作り方、それらを用いた「鋳造/鍛造/射出成形」、プラスチックの成形も当然学びますし、粉末焼結のような特殊な製造法、切削/研磨/研削のような基本的な機械加工から、プラズマ加工/溶射のような特殊な加工法、果ては「潤滑油の作り方」のような化学系のことまで、ありとあらゆることを学びます。
僕はその後、半導体や光学デバイス、バイオ/ライフサイエンスの研究開発/事業開発も担当したので、いわゆる「半導体プロセス」「メッキ」「光学フィルムの作り方」「ガラス/セラミックの製造/加工」「細胞工学」「遺伝子組み換え」のような、更に幅広い「ものづくり」の方法を学ぶことが出来ました。

※ 注4) 実際に毎年、携帯電話を一台分解して、中を見てもらっています。これだけでも、全然違います。クルマについては、実物をばらすのは勇気が要りますが(笑)、京都大学機械系には、僕が川崎重工時代に寄贈した「W650」(僕が開発に携わった機種)のエンジンが展示されており、見たい人は「分解実習/僕の解説付き」で、いつでも見ることが可能です。

※ 注5) ボルトという「ごくシンプルな機械部品」一つを理解するにも、材料力学の深い理解と、熱処理や機械加工、鍛造などの加工法に関する知識が必要となる。例えばオートバイのエンジンにおいて、重要なボルトは「塑性域角度締め」という特殊な締め付け管理がされており、過度な再利用は不可である。理由は「この締め方では、(弾性域に比べ)飛躍的に高精度で締結できるから」であるが、それは材料力学(正確には、弾塑性力学)の知識がないと、永久に分からない。

※ 注6) 「発明家たちの思考回路」E・シュワルツ より引用。


2013年12月15日日曜日

発明塾京都第159回開催報告

第159回も無事終了しました。現在取り組んでいるテーマは、年内を目処に仕上げたいと思っています。議論が二周目に入って新しい切り口も出てきましたので、追い込みを楽しみにしています。

今回は、現在検証している新しい「発明理論」に基づいて、議論を進めました。実践を通じて、方法論を日々進化させる、これは僕自身のポリシーでもあります。塾生がそれを実践してくれていることは、非常に素晴らしいことで、有難いことです。

Astamuseの永井さんがインタビューで答えていたように、「知は実践とともに身につけていく」以外にありません。

今後も、発明塾は「実践を通じて知を創造する」場でありたい、と思っています。

参加したい人は、次のテーマに移るこの冬休みに、是非連絡ください!



2013年12月7日土曜日

塾長の部屋(58)~立命館大学「発明講義」第11回講義から~発明法「壁は2つ」

立命館大学での「発明講義」(正式には「マーケティング・リサーチ」金曜日4限)は、第11回講義を終了しました。

今回は、前回講義後に再度アイデア出しをしてきてもらい、それを「発明」と呼べるレベルに練り上げるところをやりました。

Grによって進捗は違いますので、講義中にある程度時間を区切ってGr討議/作業をしてもらいつつ、議論が「良いタイミング」に入ったGrを、僕がリードする形で進めました(注1)。

今回の講義内では、2つのGrがうまく「壁」を超えたと思います。実は「壁」は2つあります。

1)適切な先行技術を設定できるか
2)それを「超え」られるか

です。いつも通りテーマは「靴」ですから、相当考えてきたGrでも、既に商品化されていたり、コンセプトモデルが発表されていたり。そうでなくとも、特許は出ています。


今回、あるGrが壁を超えたのは、

「ないと思っていた先行技術が見つかったこと」
「それを、広くユーザーに使ってもらうための工夫を考えだしたこと」

が理由です。先行技術が見つかったのは、メンバーの粘り勝ちです。そして、「工夫」につながったのは、先行技術があるからといって諦めなかったことと、先行技術を発展させる際の「ちょっとしたアイデア」を、(僕が:注2)見逃さなかったことです。そこからは、あれよあれよと「発明」が出来上がりました。

目の前で「発明が創出」されるのを見た学生さんは、「発明とは何か」瞬時に理解したようです。


他Grも、隣で見ていたでしょうか?まだ「壁」を越えられていないGrは、参考にして下さい!

では、次回も宜しく!



※ 注1)毎年、そのような形で進めています。

※ 注2)もちろん、そのアイデアを考えたのは学生さんです。僕は「拾った」だけです。つまり、「アイデア」を「発明」に繋げるには、「誰かが拾わなければならない」ということです。


発明塾京都第158回開催報告

第158回も無事終了しました。

今回も、アイデア討議に加えて、知財分析の演習課題や「発明法」に関する討議を行いました。


少し脱線しますが、僕が機械工学を先行していた当時、大学(機械系学科)では「経営工学」に関する講義がありました。そこで学んだことは、

「品質の8割は、設計で決まる」
「だから、上流工程ほど重要である」

ということです。僕が設計に興味を持つきっかけの一つが、この講義でした(注1)。


今なら、

「出るアイデアのクリエイティブさは、議論の初期に時間を投入できる、よい議論の手法をもっているかどうかで決まる」

と言うでしょう。最初の「不確実な」時間帯に投入できる資源を、どこまで増やせるか、これがポイントです。最初を不確実にすればするほど、いいアイデアが出ることが判っています。

僕が先週の「塾長の部屋(注2)」で、

「攻めろ」

と言ったのは、それが理由です。最初で出来るだけ「粘る」必要があります。


発明塾では今後も、「どのようにすれば、創造的になれるか」という方法論を追求したいと思います。


※ 注1) もう一つのきっかけは、「機械設計演習」でした。詳しくは以下。
       塾長の部屋(40)~「設計」と「発明」が持つ「アート的」面白さ

※ 注2) 塾長の部屋(57)~「手堅く」は捨てる~立命館大学”発明講義”第10回から