「発明塾®」へようこそ!: 4月 2014

2014年4月27日日曜日

「クアルコムのケースで学ぶ知財戦略」~立命館大学MOT大学院「技術経営論」にて

4月25日に、立命館大学MOT大学院(技術経営研究科)の「技術経営論」にて、弊社のケーススタディーを用いた演習講義を行いましたので、簡単に振り返りを。

1.概要

今回の講義はBKC(びわこ草津キャンパス:滋賀県草津市)で行いましたので、大半が「いわゆる学生さん(社会人学生ではないという意味)」でした。社会人の方は、2名でしたでしょうか。

用いたケーススタディは、弊社で作成したものです。ほぼ毎月のペースで開催している、弊社と慶応義塾大学の岩本教授主催の「国際標準化と事業戦略勉強会(注)」での議論が、そのベースになっています。


勉強会では、多くの企業の知財部、企画部門等の方々にご参加いただき、現在も活発な議論を行っています。次のケースについても、準備を進めており、そのための特許情報分析なども、メンバーで行っています。


知財を駆使した事業戦略には、特許情報分析は欠かせません。次のケースでは、このあたりも取り上げる予定です。



2.当日の討議

今回のケースでは、インテル、IBM、マイクロソフト、クアルコム、ノキア、エリクソン、モトローラなどの企業が取り上げられていますが、レポートの内容と、若干の討議を踏まえて、「クアルコムの戦略」に絞り、討議を進めました。

欧米のビジネススクール同様、ケースは事前配布、分析した上で事前レポートを提出して頂き、それらを基に討議を行いました。いくつかの事前提出レポートに、

「クアルコムは、知財を交渉力に用いている」

「レイヤー間の交渉が、クアルコムの戦略のポイント」

という指摘がありましたので、とりまとめて、


「クアルコムは、知財を、レイヤー間の交渉力として活用し、高い収益を上げている」


という仮説をまず立てました。この仮説を、ケースに記載の事実や、インターネット上の情報で検証してもらう形で、その後の議論を進めました。



3時間という「限られた」時間で、「何らかの結論を出す」訓練も、兼ねています。また「事実を基に、議論を進める」訓練でもあります。



討議の結果、いくつかの公開データ(クアルコムによるものが大半)から、仮説はほぼ立証できました。また、追加の結論として、


「クアルコムは、自社の周りに”生態系”を構築し、関係者を上手く巻き込むことで技術を普及させ、市場を拡大し、同時に高い利益率を維持している」


ことも、皆さん自身で証明していただきました。


「議論を通じて、仮説を検証する」


これが、楠浦が考える「ケーススタディ式演習講義」の醍醐味です。そのまま、仕事に直結するスキルを、短い時間で養うことができ、専門知識も身につく、非常に効率の良い学習法です。



クアルコムのケースは、「技術経営の本質」です。ぜひ引き続き、各自で研究していただきたい。




出身学科のエネルギー応用工学科にも所縁が深い、
エコノメトリクスの権威で、元京大経研所長の
佐和隆光 教授の著書。
「マルチメディア関連のプロダクトイノベーションは、
2015年ごろに飽和する(P196)」
と書かれており、今読み直しても興味深い



3.質疑応答

講義後の質問で、非常に興味深い質問がありました。

「ノキアは、特に間違ったことはしていないと思うのですが、なぜ携帯端末事業から撤退することになったのでしょうか?」


非常にいい質問だと思います。その問題意識を、ぜひ忘れずに「技術経営」を学んでいただきたいと、強く思いました。


私がその場でコメントしたことを、以下に記しておきます。


「関係者の方に伺えば伺うほど、私もまったく同感です。一つ注意しなければならないのは、”失敗したら負ける”のは当たり前ですが、”成功しなければ負ける”のだということです。つまり、常に”相手”がいますので、その先の手を打つ必要がある、ということです」


多くの社会人にとっては、それこそ当たり前のことだと思いますが、学生さんには、新鮮な見方だったようです。


「守り、だけでは勝てず、常に攻める必要がある」


ということは、知財でも同様ですね。



他にも、Appleの戦略など、レポート内も含め、多数の質問がありました。すべてに回答できず申し訳ありませんでしたが、「知財もまた経営の道具に過ぎない」ことを申し添えて、講義の振り返りを終了とさせて頂きます。


何名かの方には、おそらく下期の「マーケティングリサーチ」でお会いしますよね。続きは、その時に。


では。


※ 注)経営と事業のための知財戦略、という視点で議論ができる企業人の方で、参加希望者がおられましたら、弊社までご連絡ください。



2014年4月26日土曜日

発明塾京都第177回開催報告~発明に王道なし:「サイエンス」を押さえること

第177回も、無事終了しました。

京都は、昼間は暑いぐらいでしたが、夜はまだ肌寒かったですね。


さて、今回も第176回同様の3部構成で実施しました。

1)アイデアコンテストでベンチマークした特許群の、出願動向分析
今回の分析で、「この一連の出願で最も重視されている技術思想」=「この一連の出願の中心となる技術思想」を見抜くことができました。

ところで、その前振りとして「粘弾性」「濡れ性」「表面エネルギー」についておさらいをしましたが、つながりが理解できましたか?

粘弾性の式は、電気系の人にとっては基本中の基本である「LCR」回路と同じ。「高分子化学」だからといって、苦手意識を持つ必要はありません。ついでに複素関数と線形代数の復習もしたいところかな。

過去にも、発明に関連して表面エネルギーの話題は取り上げていますし、僕自身の過去の研究の一つにナノテク関連があるので、表面支配の世界ということで、何度も紹介しました。

でも、実は僕が表面エネルギーを最初に取り扱ったのは、卒論のテーマである「金属疲労におけるき裂進展挙動」です。平たく言うと破壊力学です。

ものが「破壊」するかどうか、どうやって決まると思いますか?高速道路のひび割れが、進展するかどうか、何で決まっているのでしょう?

それこそが、表面エネルギーの問題であり、破壊力学の本質です。
(興味ある人は、ぜひ調べてね)

このように、ほとんどの学問/自然現象は奥深くでつながっており、サイエンスや数式のレベルできちんと理解していれば、少ない知識で統一的に語ることができる、ということを体感してもらえたと思います。

一方で、「粘弾性の式(マックスウェルモデルにせよ、フォークトモデルにせよ)は、具体的にこういう現象を表している」というイメージ、直観に基づく理解も重要です。


再度、参考書をあげておきましょう。

・「物理数学の直観的方法」(長沼)
・「ロゲルギスト」シリーズ
・「オイラーの贈り物」(吉田)


世紀の大発見は、
結晶学に関する深い理解と
幾何学的センスの賜物。
論文は、シンプルでわかりやすく、
大発見にふさわしいものです、
理系の学生さんなら、一度は読んで欲しい

身の回りのものを、科学し、数学し、また数式を現象で直観的に理解する。自然科学を追及する頭脳を養うには、これしかありません。

サイエンスのないところに発明はない。

GWも、しっかり勉強してね。


2)知財/標準化戦略に関するケーススタディ(続)
続きの問いを、深めました。「知財が、経営におけるどのようなツールであり得るのか」を理解しておくことが、「知/頭脳を武器にする」人たちにとって、極めて重要です。

翌日の立命館大学での講義でも、同じケースを基に、活発な議論を行いました。


3)進歩性に関する演習
今回は、前回の議論を振り返りつつ、追加の問いを行いました。

「物事を多面的に/異なる立場から見る」
「常に、事実と根拠を基に議論を進める」

ことの訓練もかねて、引き続き行います。

ではでは!



2014年4月19日土曜日

発明塾京都第176回開催報告

第176回も、無事終了しました。皆さんそれぞれの新生活にも慣れ、ペースはつかめてきましたか?

さて今回も、前回に引き続き3部構成で行いました。


1)アイデアコンテストでベンチマークした特許群の、出願動向分析

2)知財/標準化戦略に関するケーススタディ(続)
3)進歩性に関する演習

基本的に知財活動は、(基盤技術→)事業→業界構造の設計→知財戦略→発明→権利化・・・ と進めていきますので、1)-3)いずれも理解していないと、研究すらままなりません。

なぜなら、研究=発明、つまり研究はこのプロセスの中間に位置するわけです。なので、前後がわかっていないと、見通し無く研究をすることになりますね。


着想も大切ですが、その後の論理的作業によって、
発明は洗練され強化される・・・
著名な小説家達も、「全く」同じことを言っています

また、進歩性について様々な観点から検討することは、「クリティカルシンキング(※)」の良い練習になります。技術と法律についてしっかり理解した上で、先行技術「文献」の記載事項に基づいて、論を進める習慣を、身につけてください。


自分の発明を客観的に見る、ということにもつながりますね。



※ 注)「クリティカルシンキング」(ゼッタミスタ)参照。すでに何度も紹介済みですが、念のため。

・「思考法に関する参考図書
塾長の部屋(48)~「自分の信じる所を追求せよ


2014年4月13日日曜日

発明塾京都第175回開催報告~「発明塾らしさ」は「必ず解けるという確信」らしい

第175回は、春休みのアイデアコンテスト終了後、初めての開催となりました。
すでにアイデアは提出しましたが、今後はその「振り返り」もふくめ、今後の飛躍に向けて、少し足場固めを行いたいと思います。

さて、今回は3つのトピックを取り上げました。

1)アイデアコンテストでベンチマークした特許群の、出願動向分析
2)知財/標準化戦略に関するケーススタディ(続)
3)先行技術分析の基礎(因数分解と課題解決分析)

詳細は割愛しますが、いずれも発明を進める上で、基本的なスキルですので、これを機会に

「解っている(つもり)の人は、より実践的に深堀り」
「解っていない人は、今のうちに挽回」

で行きましょう。しばらくは、皆でゆっくりと進めるつもりです。

提出した発明提案書の中で、
「割と読みやすかった」
ものは、この本の原則に忠実でした。
読んだ人も、読んでない人も、
いると思いますが・・・。

さて、余談を2つ。

4年を過ぎて、当初から在籍して活躍してくれた塾生さんが、卒業していろいろなところで活躍してくれる時期になっています。

先日、改めてお礼のメールを頂きました。

それで、当初の頃のことを、いろいろ思い出しました。

@京都は3年半ですが、毎週発明の討議を繰り返した学生さんが、社会に出ていくというのは、やはり、とても今後が楽しみで嬉しくもあり、すこし寂しくもあります。

ブレストの基礎や、マインドマップの使い方のような、今の発明塾からはちょっと想像できない「初歩的な」内容で、十分楽しかった頃のことが、とても懐かしく感じました。

一方で、そういう「楽しさ」自体を失ってはいけないな、ということも、改めて感じました。
今年は再び少し手さぐりで、「楽しさ(interesting)」を掘り起こしていきたいと、思います。


もう一つは、「発明塾」の取り組みを、他の先行技術文献と比較しての検討を、ここ1か月ぐらい行っていました。僕は気づきませんでしたが、ある元塾生さん曰く、

「絶対解けるという確信」

を持って、課題に取り組んでいるところが、発明塾のポイントの一つだそうです。その自信、どこから来るんですかね(笑


では、次回もよろしく。



2014年4月6日日曜日

発明塾京都第174回開催報告

いよいよ新年度ですね。新たな生活で、がらりと環境の変わったメンバーも、継続的に参加できるような環境を、今年は考えていきたいと思っています。

さて今回は、前半は発明提案書のブラッシュアップ討議、後半は今後の進め方と、知財戦略に関するまとめを行いました。

立命館大学MOT大学院での講義(4月25日開催予定)でも、同じ討議をしますので、先取りして一部をここに転載しておきますね。なお、受講予定者には、すでに配布済みです。インテルとクアルコムの知財戦略を分析したケーススタディーを、利用します。


「インテル経営の秘密」は
これだけではないようです。
もっとも、知財に関する話は、
こういう本には書けないのでしょうが・・・

・Q 1:知財戦略についてキーワード(※)を参照しながら、「ビジネスモデルとは、収益構造のデザインであり、それこそが経営である」という視点で論理を構成し、200-500字を目安に、まとめてください。
※参照キーワード:利益、数量、投資、差別化、仲間づくり、垂直寡占、安定成長、水平、イネーブラー、無力化、Sカーブ、巨額投資、加速/早期回収、巻き取る

・Q 2:本ケースおよびここまでの討議で、技術経営の本質は知財戦略であるとの、私の考えを伝えました。私がそう考える理由/論理を、200-500文字を目安にまとめてください。


今までも、

「単に面白いアイデア、面白い技術」

ではなく、

「普及する仕掛け、普及したときに押さえるべきポイントをあらかじめ組み込んだ発明、技術」

を討議するのが発明塾、というスタンスで進めてきましたが、今年もそれは変わりません。主力メンバーの代替わりに備えて、この方針で、さらにじっくりと討議していきたいと思います。

ではでは、今年もよろしく!